駐輪場をデザインする、それはなんともささやかなテーマである。しかし今日の急速な自転車の普及、遅々として進まないインフラの整備状況、自転車の都市移動手段としてのポテンシャルなどに鑑みると、これは都市の利便性のみならず、快適性や景観すら変えて行くことになる壮大なテーマであるとも言える。
このようなコンペを開催するという初の試みに対して当初は、果たしてコンペが成立するのだろうかといった不安を抱えてもいたが、蓋を開けてみれば、そんな杞憂も吹き飛ぶほどに実に魅力的な提案が数多く寄せられた。プロダクトとして完成度の高いもの、オブジェとして美しいもの、あるいは街の景観に働きかけるものなどアプローチも多彩で、どれも実現してみたいと思わせる作品ばかりであった。中でも1次審査に残った6作品はいずれも、自転車を通じた街の景観、自転車を介した人と街のつながりといった点で優れたものであったが、その後の2次審査では、さらにモックアップなど実物大の資料も追加され、なんとも迫力のあるプレゼンテーションが繰り広げられた。そのデザインとしての美しさ、完成度、実現性などを軸に公開の場で充分に議論した上で、最終的には早川和彦さんの作品を最優秀賞に、そして市川創太さん、齊藤正さんの作品を優秀賞とすることにした。
第1回目の作品とは思えない程に質の高い案を選ぶことができたことは、大変嬉しくまた有り難いことであった。今後も優れたデザインが数多く応募されることで、ささやかな街への働きかけが大きく都市の風景を変えていくことになることを期待するとともに、応募者の皆さんに改めて感謝したい。
審査員より
最優秀賞となった早川和彦さんの案は、言わば車止めのようなコンクリートの塊に空隙をつくることで、自転車の前輪を挟んで駐輪できるようにしたラックである。極めてシンプルな形態でありながら、持ち運ぶこともできるような手軽さも兼ね備えることで、設置される場所毎に素材を変えたり、また自由にレイアウトを展開させていく楽しさをも想像させるものとなっている。また駐輪したり、持ち運びしたりする際の優しさにも配慮したディテールなども実に完成度が高く、すでにどこかで売っているのではないかとさえ思わせる普遍性を持ったものである。その、ありそうでなかったデザインは、新たなスタンダードとして普及していく可能性すら秘めており、最優秀賞に相応しい秀逸な案であった。
審査員より
齊藤正さんの案は、最もミニマルに自転車をとめる仕組みを提案した、実に美しいものであった。サドルをバーに引っ掛けて停めるという仕組み自体は決して目新しいものではないが、それをたった一台のための「1」の字形の最小限のバーと、地面に切り込まれたスリットだけにしてしまったところにこの案の強さがある。スリットを設けることで自転車を安定させるというアイデアは、自転車のバランスを知り尽くしているからこそできる配慮であるし、一方の自立したバーは、街の景観に過剰な要素を付け足すことにもならず、ふと見落としてしまいそうなくらいにささやかだ。それを見つけて自転車を停めるという行為自体が、都市空間との親密な対話を楽しむようで、やはり実際に見てみたいと思わせる案であった。
審査員より
優秀賞となった市川創太さんの案は、両側からブラシのようなものが出ている溝に自転車のタイヤをはめ込むことで駐輪するラックである。掃除にも使うようなブラシに挟むだけで自転車が自立するという発見だけでも創造的だが、その背景には自転車そのものが自立していることの美しさへの飽くなき追求があったのだと言う。自転車を愛する人間にとってこれほど嬉しいことはないし、またどんな小さなスタンドすら目に入ることを許さないというこだわりは、感服するばかりである。モックアップに見るディテールも極めて緻密であり、鍵のシステムまで組み込まれた周到さは見事なもので、街中にそっと仕込まれていれば、そこに駐輪できることの発見が快感にもなるようなスリリングさも持つ魅力的な案であった。
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作品名
「 Slit Sliding Bicycle Parking 」みぞぶち かずまさん
石川 寛さん
(株式会社オデッセイオブ イスカ) -
作品名
「 切り取られてた風景の中へ~もうひとつの風景をつくる~ 」伊熊 昌治さん
高木 恭子さん
(伊熊昌治建築設計事) -
作品名
「 AOYAMA OPTICAL MASS 」寺岡 豊博さん
(コードインコーポレイテッド)